ガンバロウ福大!行政の「結」

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に端を発する東日本大震災をきっかけに、福島大学行政政策学類の教員有志でブログを開始しました。福大行政に関わる情報共有・情報発信の場として、このブログが、読者のみなさんとわたしたちの、また、みなさん同士の結節点になれば嬉しいなと考えています。一緒に手を携えて、この難局を乗り切っていきましょう。     (2012年3月26日記)

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原発事故子ども・被災者支援法の特徴と問題点

昼の震災対策室からこんにちは、しみず@ブログ庶務担当です。

某Pさんに、「最近記事書いてないでしょ!」と怒られてしまいました・・・(Pさんはどうなんだ・・・笑)。

というわけで、今回は、昨年6月21日に成立した「原発事故子ども・被災者支援法」について検討してみたいと思います(条文はこちら、今日でちょうど1年です!)。

この法律は、避難指示区域外の住民に「避難するか居住を続けるかの選択権」を認め、そのための支援を国に義務付けた画期的な法律です。
原発事故による被害は現在進行形であり、「被災者に寄り添う」という視点に立てば、同法の成立は、非常に重要な意味を持つはずです。
しかしながら、復興庁幹部のツイッター騒動で広く世間に知られるようになった通り、この法律の対象地域等を具体化するはずの、政府の「基本方針」は、いまだに策定されていません。
その結果、自主避難者等に対する国の支援は全く進んでいない状況です。

このような行政実務には、「看過しがたい過誤欠落」があると思わざるを得ません。

実は、この法律については、おやの本来の専門である「行政法」と密接に関わっていることもあり、法律の制定当初から非常に注目していたのですが、多忙にかまけて(?)、記事にしてきませんでした…僕が記事を書いていればと思うと…(そんなに影響力強くないよって突っ込みはナシで)

そこで、今日は、贖罪の意味も込めて、行政法学の視点から、同法の特徴と問題点、そして行政実務のあるべき姿を整理してみたいと思います。
(本ブログで専門に関わる記事を書くのは二回目なので、まだちょっと緊張しています(^^ゞ)


*******


1. 原発事故子ども・被災者支援法は、原発事故被災者の生活支援施策について、その基本事項を定めることにより、同施策の推進と被災者の不安解消・安定生活実現に寄与することを目的としています(1条)。
この法律は、原子力政策を推進してきた国の社会的責任に鑑みて、国に対して施策の実施を求めており、「国民のために役所を縛る法律=行政法」であると整理することができます。


2. この法律の第一の特徴は、「放射線の健康に及ぼす危険が科学的に解明されていない」ことを認めていること、そして、そのことによる被災者の「不安感」を正面から取り上げて、「不安の解消」を目的に掲げていることです(1条)。
ここからは、国は、放射線被害の科学的不確実性を踏まえ、国民の「安全」にとどまらない「安心」を実現するという前提に立って、生活支援施策を進めなければならないことになります。
この点、たしかに、「不安感」という個々人の主観的な価値観を法目的に書き込むことは極めて異例です(3.11以前の例として、ハンセン病問題解決促進法3条など)。
しかし、放射線被害の科学的不確実性からは、個別の被災者に寄り添って、各々の被災者が個別に抱える問題に真摯に向き合う姿勢が、国には求められるはずであり、そのことを確保すべく、本法も法目的として「不安の解消」を立法化したものと言うことができます。
こうして、この法律は、予防原則(=被害発生が科学的に不確実でもその恐れがある以上リスク低減策をとるという考え方)を採用しているわけです。

次に、この法律の第二の特徴は、被災者支援施策の対象者が、避難に関わる指示のある地域からの避難者に限定されていない点です。
具体的には、避難指示基準を下回っているが一定基準以上の放射線量を計測する地域を「支援対象地域」とした上で、同地域の在住者(8条)、同地域からの自主避難者(9条)、同地域への帰還者(10条)に対する生活支援施策を講ずるものとしています。
これらの規定は、上記の法目的に照らして、この法律の「被災者」の範囲を避難指示地域からの避難者以外にも広げるとともに(自主避難者等)、被災地に留まる被災者、被災地から離れる被災者、被災地に戻る被災者、それぞれの価値観を尊重して被災者支援施策を実施していくという趣旨を明らかにしているということができるでしょう。

続いて、この法律の第三の特徴は、被災者支援施策の実施にあたり、子ども、妊婦に対して特別な配慮がなされなければならないとしていることです(2条5項)。
実際に、子ども・妊婦に対する支援施策として、その生活領域における優先的除染(7条)や学校給食における放射性物質検査(8条3項)、生涯にわたる健康診断(13条2項)等が、具体的に規定されています。
この法律は、放射性物質の影響を特に受けやすいとされる子どもや胎児について、一般の被災者と比較してより特別な配慮をすることを明らかにしており、子ども・胎児に対する特別な支援を求めていく上で、法的根拠を提供するものということができます。


3. 以上の点で、この法律は非常に画期的な側面を持っているということができますが、他方で、この法律は、あくまで被災者支援の基本的な方向性を提示しているにとどまる条文が多く、実際に自主避難者等の支援策を実施するには、行政による施策の具体化が必要です。
別の表現をすれば、行政による施策の具体化がなければ、この法律の理念は画餅に帰すことになってしまうということです。

この点、具体的な施策は政府が定める「基本方針」に基づいて行われることになっており(5条)、基本方針は「定めなければならない」ものとされています。
他方で、この法律は、「いつ」「どのような具体的内容を」基本方針として定めなければならないかについては、何も書いていません。
その結果、現在まで基本方針は策定されておらず、「支援対象地域」の範囲ですら確定されていないため、この法律に基づく支援策は全く動いていません。

結局、この法律の最大の問題点は、行政を適切に動かさなければ法律の理念を実現できないこと、そして、それにもかかわらず、行政をどのように動かすかについて法律が沈黙してしまっていることにあります。
法律の条文上は、どの地域がこの法律の対象となるかを決めることも、さらには、その判断を先送りにすることも、政府のさじ加減で出来てしまうというわけです。
もう少し専門的な言葉でいえば、この法律が行政に広く裁量判断の余地を与えているため、不適切な裁量判断(=基本方針策定の先送り)がなされていても、それを違法だとは言いにくい、ということです。


4. では、「基本方針策定の先送り」という行政実務は、はたして許されるのでしょうか(社会的に、ではなく、法的に)。

私見では、「否」、つまり、これ以上の先送りは違法であり許されないと思っています。
 
たしかに、被ばくリスクに関わる行政の専門知識、放射能汚染に対する臨機応変な行政対応の必要性、行政リソースの有効活用といった事情に鑑みれば、基本方針の策定時期や策定内容について、一定程度の行政裁量を許容すべきということはできそうです。
この法律が広く行政に裁量を与えているのも、そのような実質的理由に支えられているのでしょう。
しかしながら、そもそも、行政裁量とは、「法律が行政に対して与えた自由な判断の余地」のことですから、法律が行政に与えた権限の枠内でのみ許されるもののはずです。
以前、電気使用制限についての記事でも触れたことがありますが、行政の裁量判断は、根拠法令・関連法や憲法・社会の一般常識から導かれる「裁量行使の法的指針」に沿っていなければ、違法となるのです。
そのため、原発事故子ども・被災者支援法の下での行政判断についても、同法の趣旨や関連法・憲法等から導かれる法的指針に適う形で、適切な時期に、適切な対象者に、適切な施策を実施しなければならないはずです。

このとき、「基本方針策定の先送り」という行政実務は、「策定時期」をめぐる裁量判断が適切なのかどうかという問題と捉えることができます。以下、もう少し詳しく考えてみましょう。

まず、原発事故子ども・被災者支援法は、「先送り」について何も述べていません。
しかし、5条が「(基本方針を)定めなければならない」と規定していることや、基本方針を定めなければこの法律の理念は実現され得ないという法構造からは、基本方針の策定を無期限に先送りにできないことは明らかです。
そうすると、どの程度の期間までであれば、裁量判断として「先送り」を許容できるかが問題となります。
この点については、残念ながら、絶対的な基準はなさそうです。
基本方針として定める事項に関わる情報収集等にどれくらいの時間がかかるのか、他の原子力災害対応施策との関係で基本方針の策定がどの程度優先されるべきか等について、はっきりとしたことは言えないからです。
だからこそ、ここまでの「先送り」が黙認されてきたということもできるかもしれません。

ただし、相対的な基準としては、同じような法構造を持つ放射性物質汚染対処特別措置法の下での行政実務が参考になると思われます。
放射性物質汚染対処特別措置法は、除染行政等の根拠法ですが、この法律も、具体的な施策は、内閣の定める「汚染対処の基本方針」(7条)に基づいて行われることになっています。
そして、この「汚染対処の基本方針」は、法律が制定されてからわずか2ヵ月半で策定されています。
放射性物質汚染対処特別措置法も、原発事故子ども・被災者支援法も、いずれも、現に人が居住している地域の放射能汚染対策を主要な内容とする法律です。
そのうち、片方の基本方針が2ヵ月半で策定されているにもかかわらず、もう片方の基本方針が1年たっても策定されていないというのは、憲法14条から導かれる平等原則の観点からも、明らかに異常ではないでしょうか。
「2ヵ月半と1年の差」を説明できる合理的な理由がない限り、原発事故子ども・被災者支援法に基づく基本方針の未策定は、違法との評価を免れないと思います。


5. では、さらに一歩進んで、行政実務のあるべき姿として、どのような内容の基本方針を定める必要があるでしょうか。ここでは、とりあえず、喫緊の課題となっている「支援対象地域の範囲」について取り上げることにしましょう。

支援対象地域の範囲をめぐっては、現在、年間1m㏜以上の線量を計測する地域にするという案と、同5m㏜という案が対立しています。
前者の案は、日弁連やNPOが支持していますが、政府は、後者の案も検討していると言われています。
ちなみに、前者は、一般公衆の年間被ばく線量限度の基準であり、かつ、放射性物質汚染対処特別措置法に基づく除染対象となる「汚染状況重点調査地域」の設定基準です。これに対して、後者は、飲食等の日常生活が禁止される「放射線管理区域」の設定基準とほぼ同レベルです。

私見では、支援対象地域は、除染対象地域とバランスがとれていることが重要であり、1m㏜基準が適切な結論です。
すなわち、「除染が必要な地域」=「除染なしに居住すべきでない地域」=「避難するか除染を待つかの選択権が認められる地域」という発想です。

この点については、年間1m㏜が「通常時の」一般公衆の被ばく線量限度とされていることが問題になりえます。
すなわち、「事故後の」対策という意味での基準は、支援対象地域についても、除染対象地域についても、もう少し高い線量でもよいのではないかという議論が考えられるのです。
しかしながら、原発事故子ども・被災者支援法は、既に述べたとおり、予防原則を採用しています。そうである以上、1m㏜基準こそが妥当といえそうです。
(この点については、本当はもう少し詳細な議論をすべきなのですが、諸事情〔学生のみなさんに対する教育的配慮です←笑〕により、後日改めて検討させてください)


6. 本日で、原発事故子ども・被災者支援法の制定から、ちょうど1年がたちました。
基本方針が早急に策定されること、そして、読者のみなさんがこの法律に少しでも興味を持ってくれることを期待して、本日はこれにて筆をおきたいと思います(長文乱文駄文失礼しました…orz)。

コメント

チェロアンサンブルキャラバンに伺います

はじめまして。国際チェロアンサンブル協会理事をしています高橋 明と申します。7月6-7日に福島>南相馬>相馬にチェロ二十人のアンサンブルで演奏訪問に伺います。興味ある方は是非以下をご覧になるか高橋 明に連絡下さい。http://1000cello.vc/tohoku.html#%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%83%90%E3%83%B3

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