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ガンバロウ福大!行政の「結」

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に端を発する東日本大震災をきっかけに、福島大学行政政策学類の教員有志でブログを開始しました。福大行政に関わる情報共有・情報発信の場として、このブログが、読者のみなさんとわたしたちの、また、みなさん同士の結節点になれば嬉しいなと考えています。一緒に手を携えて、この難局を乗り切っていきましょう。     (2012年3月26日記)

福島大学に対する電気使用制限の法的問題点

昼の震災対策室からこんにちは、オレンジ・やきのりです。

一昨日のブログで、ピたさんが福島大学に対する電気使用制限の話を取り上げていましたね。実はこれ、私の本来の専門である「行政法」と深くかかわっているのです。そこで、今日は、行政法学の視点から、今回の電気使用制限の問題点を整理してみたいと思います。

(本ブログで専門に関わる記事を書くのは初めてなので、ちょっと緊張しています←笑)

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[電気使用制限の通知書]


1.まず、行政法と言ってもピンとこない方も沢山いると思います。「行政法」という法律が存在するわけではないので、余計わかりにくいのですが、簡単に言うと、役所が絡んでくる法律はすべて行政法です。

今回の電気使用制限についていえば、電気事業法27条という行政法が、「電気の需給の調整を行わなければ電気の供給の不足が国民経済及び国民生活に悪影響を及ぼし、公共の利益を阻害するおそれがあると認められるとき」に、経済産業大臣が電気の使用を制限できると定めており、このことが電気使用制限の根拠となっています。


2.こう見てくると、「私たちをコントロールするお墨付きを役所に与えているだけではないか、けしからん」という感情を行政法に対して抱くかもしれません。しかし、裏を返せば、「行政法の範囲内でしか役所は行動できない」ということもできるのです。

次に、このことをもう少し詳しく見て行きましょう。

今回の問題について言えば、「電気の需給調整を行わなければ…公共の利益を阻害する恐れがあると認められる」ことが、電気使用制限の条件になります。

ただし、「公共の利益を害するおそれがある」か否か、また、「誰に対して」使用制限を行うか、といったことについては、条文上規定されているわけではありません。この判断は、一般的には、経済産業大臣の裁量に委ねられていると考えられています。

そうすると、法律の条文上は、経済産業大臣が好き勝手に電気使用制限を行ってよいことになり、「結局のところ電気事業法は役所をコントロールできていないではないか!」ということになりそうです。

果たしてそうなのでしょうか。

答えは否です。

最高裁判所の判例は、電気使用制限のように裁量判断の余地のある行政処分であっても、「社会通念に照らして著しく妥当性を欠く」場合には、当該処分が違法になると判断しています(最判昭和53・10・4民集32巻7号1223頁等)。

このとき、「社会通念」という言葉は、行政処分の根拠法令、関連法や憲法、社会の一般常識から導かれる裁量行使の指針を指していると言われているため、その指針から外れるような役所の行動は認められないことになる(すなわち、指針に沿わない役所の行動をコントロールできることになる)わけです。


3.では、今回の福島大学に対する電気使用制限は、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」のでしょうか。

まず、電気事業法の目的規定(1条)を見てみると、「この法律は、電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて、電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする。」と規定されています。

今回の電気使用制限は、「電力の需給バランスの改善のために大口需要家の電力使用量を削減すること」を目的としており、一般論としては、電気事業法の目的にかなっています。

しかし、これは、あくまで一般論としてであり、福島大学の置かれた状況を勘案すれば、福島大学に対する電気使用制限は憲法上の裁量行使指針に反している可能性が高く、「社会通念に照らして著しく妥当性を欠」いているのではないかと思われます。

憲法上の裁量行使指針としては、憲法13条から「比例原則」、同14条から「平等原則」が導かれると言われています(憲法13条や14条についての詳細は、憲法の教科書を読んでみましょう)。今回のような規制行政の場面においては、前者は、規制目的に照らして規制手段が過酷ではないこと、後者は、規制対象を行政庁が公平に取り扱うことを意味します。つまり、行政庁は、行政目的を達成するために必要最低限の規制を、公平に実施することを、憲法上要請されることになりますが、福島大学に対する電気使用制限は、この指針に反するのではないかというわけです。

以下では、もう少し具体的に、福島大学に対する電気使用制限と比例原則、平等原則の関係を見て行きましょう。


4.ピたさんの記事にもありましたが、今回の電気使用制限には、福島大学が原子力災害の影響を直接受けている地域に存在し、窓の開閉を躊躇せざるを得ない状況にあるという視点、大学が一般事業者とは異なる研究教育機関であるという視点が、決定的に欠落しています。

必要最低限規制という発想からすれば、被災地域については特別扱いをすることが認められてしかるべきでしょう。特に、生命・健康被害に直面する原子力災害地域については、気象条件次第では窓を開けて換気することもままならず、エアコンに関わる電気需要については、特別扱いをしないことが即比例原則違反になると言っても過言ではありません。

実際には、7月1日付の福島民友の記事が、「この制限令の対象となる事業所数は東北電力管内は約3700。このうち、鉄道や病院、震災の被災地域の公共施設など約30分野には例外を設定した」と報道した通り、経済産業省は被災地域の公共施設等につき特別扱いを行っており、同省のHPに掲示された告示に、その詳細が定められています。つまり、経済産業大臣は、被災地域の公共施設等について、個別の取り扱いを実際に行っています。

しかし、福島大学はこのような特別扱いを受けていません。

ピたさんが前回の記事で紹介してくださっていますが、福島大学は、弁明書において、福島市内の放射能濃度が通常の40倍ほどになっている点、そのような中で窓の開閉により室内温度の調整を図ることは困難な点、例年と異なり8月にも授業日程を組みこまざるを得ない点を指摘しています。これは、福島大学の置かれた状況の特殊性を指摘し、特別扱いを経済産業大臣に要求していると理解することができます。にもかかわらず、経済産業大臣は、福島大学に対する特別扱いを認めませんでした。このことは、比例原則に反する扱いを福島大学に対して強いていると整理することが可能です。

加えて、経済産業省HPによれば、福島県全域が被災地域に入っているので、経済産業大臣は、福島大学が被災地域に所在しているものの、被災地域の公共施設等ではないと判断していることになります。実際、経済産業省の告示においても、大学は被災地域の公共施設等には明示的には含まれていません。この点、経済産業省HPでは、「今後、更に対応が必要な案件が出てくれば、個別の事例ごとに判断していきます。」とされていますが、被災地域の公共施設等と福島大学を区別する扱いは、平等原則の観点から問題があります。

福島大学が被災地域の公共施設等ではないという判断は、大学という施設の特徴を理解していないと言わざるをえません。前掲の福島民友の記事は、「小売業やサービス業の大半は規制緩和の対象になっていない」としていますが、経済産業大臣は、大学を「サービス業」であると判断しているのでしょうか。大学は研究教育機関であり、何千人もの人間が日常的に長時間利用する施設であるとともに、一般事業者のように利益追求のために電気を消費する施設ではありません。実際に、石油危機時に電気使用制限が実施されたときには、学校は電気使用制限の対象外となっています(2011年4月2日付朝日新聞)。にもかかわらず、公共施設等から大学を除外するという判断をしているのは、不公平な取り扱いに他ならないのではないでしょうか(なお、小中高校については、ほとんどが大口需要家ではないので、ほとんどが今回の電気使用制限の対象外です)。

これらの点につき、平等原則の観点からは、むしろ、福島大学も、他の地域や他の事業者と同じように電力使用制限に服するべきだという意見もあるかもしれません。しかし、「公平な取り扱い」とは、合理的な理由なしに規制対象に対する取り扱いを区別してはならないということであり、福島大学に対する特別扱いに合理的な理由がある以上は、このような意見が問題になることはないと思われます。


5.以上の検討を踏まえると、いずれにせよ、今回の福島大学に対する電気使用制限は、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」ため、違法ではないかと主張することができそうです。しかし、もしそうだとしても、違法な経済産業大臣の判断を是正することができなければ、まったく意味がありません。

この点については、①行政手続法、②行政不服審査法、③行政事件訴訟法という法律が関係してきます。①は、電気使用制限という行政処分に至る過程における反論手続、②と③は、最終的な行政処分に不服がある場合における行政庁や裁判所への争訟手続を定めています。

①の行政手続法は、電気使用制限のように裁量判断の余地のある行政処分についても、処分に至る手続を予め法定しておくことによって、処分の内容がより適切なものになるようにしようという趣旨で定められているものです。色々な手続があるのですが、今回は、13条1項2号の「弁明の機会の付与」という手続が重要です。

この手続は、弁明書という書面を提出して、処分に対する反論を行うという手続であり、弁明書を受けたとった行政庁(今回の場合には経済産業大臣)が、弁明書の内容を踏まえて最終的な処分を行うことになります。実際に、福島大学も、経済産業大臣に弁明書を提出しました。

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[弁明書]

この手続が正常に機能すれば、福島大学に対する電気使用制限を経済産業大臣が再考した可能性もあるように思いますが、今回は、手続そのものに大きな問題点が3点ありました。これらの問題点をみれば、経済産業大臣は、福島大学に対する電気使用制限を再考するつもりは最初からなかったのではないかと思わざるを得ません。

第一に、弁明の期間が短すぎるという点です。行政手続法上は、弁明書の提出期限までに「相当の期間」を置く必要があるとされています。しかし、今回、電気使用制限の通知が6月1日(水)付で、弁明書の提出期限は6月10日(金)となっており、その期間はわずか10日です。大学という組織が一般企業と異なりトップダウン型の意思決定組織ではない点、教職員だけでなく学生も大学の構成員であり、学生に直接影響が及ぶ処分が問題になっている点を踏まえれば、弁明書の提出につき、少なくとも倍程度の弁明期間を置く必要があったと思われます(構成員に対する周知、意見聴取、とりまとめにつき、実質1週間ですべてを行うということは無理でしょう)。弁明書について大学内で公式に意見聴取が行われた事実はなく、実際に福島大学から提出された弁明書は通知に書かれている内容を法的に糾弾するものには至っておらず、さらには、弁明書の提出に際して行政手続法29条2項で認められる証拠書類の提出もなされていませんが、その主たる原因は、弁明期間の短さにあるように思われます。

第二に、弁明書に対する審査期間が短すぎるという点です。弁明書の提出期限から最終的な処分に至るまでの期間について、行政手続法には規定がありません。とはいえ、弁明書を審査する期間が適切にとられていなければ、行政手続法が弁明手続を制定した意味がなくなってしまいます。今回、弁明書の提出〆切は6月10日(金)でした。実際の弁明書は8日(水)に提出されていますが、10日まで弁明書(ならびに証拠書類)の提出権が保障されているとすれば、実際の審査開始は〆切後ということになります。ところが、最終的な処分の通知は13日(月)になされています。すなわち、土日が休業だとすれば、実質的な審査をまったくしていないに等しいことになります。結局、結論ありきで弁明手続をしているのではないかと思わざるをえません。

第三に、第二の点とも関係しますが、処分理由が不明確であるという点です。弁明に対する実質的な審査をしていなければ処分理由が不明確になるのは当たり前なのですが、今回の処分理由において、弁明書を踏まえた記述は、「貴大学の厳しい状況は十分に認識しておりますが」という文言以外に何もありません。
不利益処分については行政手続法14条で理由付記が義務付けられており、その程度は、判例上、「特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのか」が処分通知書の記載自体から了知しうるものでなければならない(最判昭和49・4・25民集28巻3号405頁等)とされています。弁明書が学生に対する放射能被害に言及している以上、少なくとも、原子力被災地域を特別扱いしないのはなぜなのか、福島大学を被災地の公共施設等と同視できないのはなぜなのか、といったことを明らかにする必要があると思われます。今回の処分理由が弁明書を踏まえた理由付記として不明確である以上、今回の処分は行政手続法14条に照らして非常に問題があります。

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[弁明書に対する回答]

6.6月13日付で最終的な処分の通知書が届き、既に7月1日から電気使用制限が始まっています(9月9日まで)。僕は、行政法の授業において、「それぞれの法律は役所が従わなければならない約束事を明らかにしており、それぞれの約束事には共通する基本原則があるはずです。この基本原則を学ぶのが行政法という科目であり、行政法をマスターすれば、いざ自分が役所にいじめられそうになっても、慌てずに対応できますよ。」とアピールしているのですが、今回の場合には、結局、そのまま泣き寝入りするしかないのでしょうか。

この時に最後の砦になるのが、②の行政不服審査法と③の行政事件訴訟法です。処分に不服がある場合には、行政庁に対する不服申立て手続(簡易裁判のようなもの)と、裁判所に対する訴訟手続(裁判)が用意されています。今回の場合には、処分の翌日から60日以内であれば経済産業大臣に対して行政不服審査法に基づく異議申立てという不服申立てを行うことができ、処分があったことを知ったから6か月以内であれば取消訴訟という裁判を行うことができます。また、異議申立てに対する決定に不服がある場合にも、決定があったことを知った日から6カ月以内であれば取消訴訟という裁判を行うことができます。もちろん、今回の福島大学に対する電気使用制限が違法であると判断されれば、その処分は取り消されることになります。

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[最終的な処分の通知書。2枚目に異議申し立てに関する教示がされています。]

ただし、今回の電気使用制限は9月9日で期間が満了してしまうので、それまでに決定や判決に至らない場合には、異議申立てや取消訴訟をする実益がないとして、訴えが却下されてしまう恐れがあります(「訴えの利益の事後的消滅」といいますが、詳しくは、行政法の教科書を読んでみましょう)。その場合には、国家賠償法という法律に基づいて、違法な電気使用制限によって被った損害の賠償を求めることが考えられます。


7.大規模停電が引き起こす問題の深刻さはもちろん分かっているつもりですし、もちろん私たちも最大限の節電に努めるべきです。また、私たちよりも厳しい状況の下で、現在、生活を送っている方々が沢山いらっしゃることを考えれば、電気使用制限を受け入れるべきだという議論もあるかもしれません。

しかし、節電に最大限努めるべきことと、福島大学に対する電気使用制限に異議を唱えることは別の話であり、皆さんにはぜひとも声を挙げてもらいたいと思います。大学側は、弁明書を提出した後、大黒さんの記事にもあったように、経済産業大臣に対する異議申立てを諦めたようであり、「節電行動基本指針」なるものを作成した後はこの問題を殊更取り上げることもなく、「1000人の笑顔プロジェクト」に邁進しているようです。

異議申立てや裁判を実際に行うか否かは別として、情報を共有し、発信し、議論することを通じ、この大学の、この国の行政のあるべき姿を考えてもらえたら、そして、この記事がそのきっかけになってもらえたらと願いつつ、筆を置くことにします。

コメント

ちなみに

寮生が節電に協力しない場合、乾燥機の主電源を落とす可能性もあるとのこと。昨日のリビング会議で通告されました。

事故以来、ほとんどの寮生が洗濯物を乾燥機で乾かしています。つまり、外に干すのが不安ということ。

それなのに、乾燥機。

むむむむむ、ですね。

ちなみにあれからお布団も干していません。そろそろ干したいなぁ…太陽のにおいがするお布団で寝たいです。

寮生は大学内に居住しているという視点、とっても大事ですね。
そういう視点に立てば、寮は間違いなく電気使用制限の対象から外されるべきでしょう。大学全体として節電に努めるべきことは当たり前なのですが、大学の方針には・・・?マークですね。

  • 2011/07/05(火) 22:31:10 |
  • URL |
  • オ・や #-
  • [ 編集 ]

1000人の笑顔???

まだ、原発の再びの水素爆発の危険性も消えず、キャンパス内も高放射線下にありながら、、、

 『笑顔の1000人』

っていうのには、非常に違和感を感じます。 
せめて、安定冷却状態になり、キャンパス内年間1mSvが達成して、
はじめて、とりあえず一安心の笑顔って感じになると思うのですが。

  • 2011/07/06(水) 20:42:40 |
  • URL |
  • 笑顔って?? #-
  • [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2011/07/06(水) 22:28:00 |
  • |
  • #
  • [ 編集 ]

1000人の汚染された笑顔、まったく同感です

まったく同感なので、本日学長宛、メールしました。

お忙しいところ失礼いたします。
私は、福大生の保護者で、高橋と申します。
日ごろより子の教育環境の充実にご尽力いただき感謝申し上げます。

さて、1000人プロジェクトというイベント・ピーアール活動が行なわれると聞きました。

大学のピーアール活動、営業活動を妨害するつもりはありませんが、いささか疑問を持ちました。

S棟前広場は、7月7日で1.36マイクロ、ピーク時には4.42マイクロ(3月24日、それ以前はもっと高いでしょうが記録なし)の放射線の数値が出ています。世界に発信するということですが、世界から見れば、そんな数値の高い場所でへらへら笑っているのは異状には見えないでしょうか。

元気な姿を見せたいと言うのはわかりますが、放射線は目に見えない。大学をアピールするなら、こんな中でも十分に対策しながら、また放射線を取り除く活動を大学・地域で頑張っているところを見せてゆけばよいのではないのでしょうか。

イベントに向け、すでに準備は進んでいることと思います。中止が不可能とすれば、せめて放射線値の比較的低いL4教室を選択するとかはできないものでしょうか。

余計なことを申し上げ申し訳ありませんが、ご一考いただければ幸いです。


  • 2011/07/08(金) 22:30:31 |
  • URL |
  • 福大生の親、高橋 #-
  • [ 編集 ]

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